スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い
「三十個……!?断れよ!明日の仕込みもあるんだぞ!?」
「お願い、お兄ちゃん……」
「お前なあ、そんな泣きそうな顔で言うなよ……」
貢は呆れたように息を吐き出し、なんだかんだ言いつつ冷蔵庫からシュークリームの材料を取り出していく。
「ったく。好きなら好きってさっさと言って、潔くフラれてこい。ビビってんじゃねーぞ」
「お兄ちゃんには関係ないじゃん……」
「ははっ。失恋したら結乃の好きなモンブランをボウルいっぱいに作ってやるよ」
貢はコック帽をクルンと指で回すと頭に被り直し、鮮やかな手つきでシュークリームを拵え始めた。
(告白かあ……)
店頭に戻った結乃はテイクアウトの準備をしながら物思いに耽った。
自慢じゃないが恋愛経験はゼロに等しい。
恋という病に初めて罹患し免疫がない分、おそろしいほど急速に意識を蝕まれる。
好きだと自覚した途端に失恋だなんて悲しすぎる。
悲嘆に暮れたそのとき、カウベルが鳴った。
「いらっしゃいませー」
顔を上げた結乃の目に、人を不快にさせるニヤニヤけ顔が飛び込んでくる。
なぜ、結乃が激しく落ち込んでいるときに限ってやって来るのだろう。