スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い

 兵頭はいつも結乃の身体をこれでもかと、舐めるように眺めまわしてくる。
 ブラウスからはちきれんばかりの乳房は、特に格好の餌食だ。
 結乃にとっては肩こりばかりを引き起こすにっくき脂肪の塊だが、ある種の男性達には少しばかり魅力的に映るらしい。

(ううっ!やっぱり苦手……)

 結乃は今年で二十四歳になるが、同世代の女性と比べるとかなりの童顔だ。丸顔で目が大きく、声もアニメの声優のように甲高い。
 結乃は昔から変質者に目をつけられやすく、邪な輩に道端で声を掛けられるのは日常茶飯事。
 そのため、男性に対する苦手意識が強かった。

「やっと帰った!ほんっとうに!もう!しつこいんだから!」

 皮肉の応酬の末に兵頭が帰宅すると、母は即座にショーケースにアルコールスプレーを吹きかけダスターで綺麗に拭きあげた。
 
 兵頭はこれまで幾度となくノエルに立ち退きを迫ってきた。
 結乃達が借りているこの建物を取り壊し、新しく小綺麗なビルを建てたいらしい。

「早く諦めてくれないかしら……」

 母は大きなため息をついた。
 当然ながら交渉がまとまる気配は一向にない。
 母も結乃も兵頭を苦々しく思っていた。

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