スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い

 ◇

「いだだだだだだーー!」

 母の叫び声が聞こえてきたのは、結乃がいつも通り、出勤前に洗濯物を干している時だった。

「お母さん!?」

 異変を感じ取った結乃はサンダルを脱ぎ捨て、ベランダから悲鳴が上がった一階まで階段を駆け降りた。

「お母さん!?どうしたの!?」
「こ、腰が……」

 母は腰を右手で押さえ、息も絶え絶えで台所のフローリングを這いつくばっていた。

「こ、腰って……。まさか……!」
「また……やっちゃった……みたい……」

 ――ギックリ腰だ。
 結乃は瞬時にそう判断すると、痛みにうめき苦しむ母を近所の整形外科へ連れて行った。
 結乃の見立て通り、母はギックリ腰と診断され、かかりつけの医師から痛み止めと湿布を処方してもらった。

「うう……。ごめんね、結乃……」
「やっちゃったものはしょうがないよ。今日は寝てて?あとで様子を見に来るからね!」

 結乃は母家に連れ帰りベッドに寝かせ、枕元に必要なものを置くと、バタバタと慌ただしく自宅から歩いて五分の距離にあるノエルへ向かった。

(急がなきゃ!)

 病院が混んでいて、十時の開店には間に合わなかった。兄とパート従業員だけで店を切り盛りするのはやはり心許ない。

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