このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 イリヤは手にしたチョコレートとクライブの口元と、交互に見る。これを口の中に入れるだけと言われればそうなのだが、その行為に躊躇いを覚えるのはなぜだろう。いつもマリアンヌには食べさせてあげているはずなのに。
 そう、マリアンヌと同じだ。
 イリヤはそう思って、手にしたチョコレートをクライブの口の中に放り込んだ。その瞬間、彼はイリヤの指ごとパクリと食べる。
「あ、ちょっと。私の指まで食べてます」
 指を舐めているクライブから変な色気が漂ってきた。イリヤは慌てて指を引き、ナプキンで指を拭く。
「もう。もっと食べたいのであればご自分でどうぞ」
 ぷんすか怒りながらも、イリヤは包装されたままのチョコレート菓子をクライブの前に差し出した。
「なんだ。もう、食べさせてはくれないのか?」
 彼は笑いながらそう言って、もう一つだけチョコレートを手にした。それを長い指でくるりと包装を開けると、今度はイリヤの口の前で見せつける。
「ほら」
「え?」
「いいから、口を開けろ」
「ええ? んぐっ」
 驚いている隙に口の中に放り込まれた。唇が少しだけ彼の指に触れた。
 その指を、クライブはぺろりと舐め取った。
「やっぱり甘いな」
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