このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 とにかく、先ほどからイリヤの心臓はうるさい。これではまるで、想いが通じ合っている恋人同士のような、そんな甘い空間ではないか。
 それを断ち切るかのように、イリヤは声を張り上げる。
「閣下。それで、悩み事とはいったいなんでしょう?」
「ああ、そうだった。忘れていた」
 眼鏡の奥の目は笑っている。だからこれはわざとこのようなことを言って、イリヤの反応を見て楽しんでいる。だが、その目が鋭くなった。となれば、これから彼は真面目な話をする。
「最近、魔物の出現が多くなっているという話はしただろう?」
 彼の声色もかわった。
「そうですね。そのための聖女召喚であったと、そうおっしゃっていましたね」
 イリヤの言葉に頷いたクライブは言葉を続ける。
「聖女召喚は成功した。だが、それは一部の者しか知らない機密事項だ。だから、他の者たちからみれば」
「まだ聖女はいない?」
「そういうことになる」
 クライブは腕を組んだ。
「だから、聖女を求める声があがってきている」
「つまり、もう一度聖女召喚の儀を?」
「マリアンヌを召喚したときの儀式も、一部の者しか知らない。そもそも聖女召喚の儀はひっそりと行われるものだからな。いつ行われたかなんて、普通の人間は知らないんだ」
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