このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
イリヤだってそのような儀式が行われているのを知らなかった。ただ、魔物が多く出現した時代には、どこからか聖女が現れたと、そういった文献を目にしたくらい。
クライブはイリヤの顔色をうかがってから、言葉を続ける。
「だが、聖女はもうここにいる。だから、召喚の儀を行っても新たな聖女は現れない。それでも周囲は聖女を望んでいる」
望まれた聖女は存在するのに、その聖女が望まれた聖女ではなかった。成人した女性ではなく、赤ん坊であるからだ。マリアンヌに瘴気を払って魔物を蹴散らせとお願いしても、彼女には言葉が通じない。
クライブの悩みを理解した。
「では、どうされる予定なのですか? マリアンヌではない聖女を召喚する?」
そうイリヤも口にしたが、それは不可能であるとクライブは何度も口にしている。
「そういう意見もあがっている。実は……マリアンヌを元の世界に戻せば、次の聖女を召喚することができるらしい」
喪失感がイリヤを襲った。手足が急にしびれるような、心臓がバクバクと激しく打つような、呼吸もうまくできないような。
「……え?」
「落ち着け。まだ、それが決まったわけではない。なによりも、陛下がそれを拒んでいる」
イリヤの味方が身近にいた。エーヴァルトのマリアンヌ溺愛ぶりは気持ち悪かったが、今になっては心強いとさえ思う。
「そうですか……陛下が。そう、そうですよね……」
ゆっくりと息をする。そのとき、膝の上においてある手に、熱が重なった。はっとすると、クライブがやさしく手を握っていた。
「イリヤ……震えている……」
「ごめんなさい。マリアンヌを失うかと思ったら、少し」
クライブはイリヤの顔色をうかがってから、言葉を続ける。
「だが、聖女はもうここにいる。だから、召喚の儀を行っても新たな聖女は現れない。それでも周囲は聖女を望んでいる」
望まれた聖女は存在するのに、その聖女が望まれた聖女ではなかった。成人した女性ではなく、赤ん坊であるからだ。マリアンヌに瘴気を払って魔物を蹴散らせとお願いしても、彼女には言葉が通じない。
クライブの悩みを理解した。
「では、どうされる予定なのですか? マリアンヌではない聖女を召喚する?」
そうイリヤも口にしたが、それは不可能であるとクライブは何度も口にしている。
「そういう意見もあがっている。実は……マリアンヌを元の世界に戻せば、次の聖女を召喚することができるらしい」
喪失感がイリヤを襲った。手足が急にしびれるような、心臓がバクバクと激しく打つような、呼吸もうまくできないような。
「……え?」
「落ち着け。まだ、それが決まったわけではない。なによりも、陛下がそれを拒んでいる」
イリヤの味方が身近にいた。エーヴァルトのマリアンヌ溺愛ぶりは気持ち悪かったが、今になっては心強いとさえ思う。
「そうですか……陛下が。そう、そうですよね……」
ゆっくりと息をする。そのとき、膝の上においてある手に、熱が重なった。はっとすると、クライブがやさしく手を握っていた。
「イリヤ……震えている……」
「ごめんなさい。マリアンヌを失うかと思ったら、少し」