このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 目頭が熱くなり、涙がこぼれそうになる。力強い腕が、イリヤの身体をとらえて引き寄せた。
「オレも同じだ。マリアンヌを失いたくないと思っている」
 クライブの落ち着いた声が、イリヤの耳をなでた。同じ想いを持つ者が近くにいるだけで、励まされる。
「だから、イリヤ。オレと陛下で考えたことがある。だがこれには、イリヤの協力が必要だ」
 もしかして、それが本当の悩み事だったのではないだろうか。
 クライブは腕の力を弱めてイリヤを解放すると、彼女のラベンダー色の目を食い入るように見つめた。
 とくんと胸が高鳴る。これは、緊張か期待か。
「いいか? よく聞いてくれ。もし、いやだったら断ってもらってもかまわない」
 これほど真剣な眼差しのクライブを見たことがない。いや、初めて顔を合わせて、マリアンヌの母親になってほしいと言われたとき依頼だ。
「……イリヤ。君に聖女マリアンヌの代わりになってもらいたい」
< 107 / 216 >

この作品をシェア

pagetop