このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 四か月ほど前の聖女召喚の儀に立ち会ったのはエーヴァルトとクライブ。それから実際に儀式を取り仕切る神官長、儀式を行う魔法使いが四名。その七名だけが、マリアンヌが聖女であることを知っている。そしてその儀式を行った魔法使いたちですら、マリアンヌの力には太刀打ちできないと根をあげたのだ。
 その結果、マリアンヌをクライブの養女とし王城で世話をしていたのだが、彼女の世話をしていた者が一人、また一人と弱音を吐いていく。
 さまざまな伝手を使って、魔力が高く、赤ん坊の世話をできるような者を探したが、見つからなかった。職業紹介所にも求人を出した。ただし、魔力の高いものだけがわかる方法をとって。
 その結果、見つかったのがイリヤである。彼女の噂はちらほらと耳には入っていた。それを信じていたかどうかと問われると、何も気にしていなかった。そういった噂があると知っていただけ。
 もちろん本物のイリヤは噂とは異なる女性であり、クライブは彼女と結婚までしてしまったが。それも、初めて会ったときに興味が沸いたからだ。
 門番の騎士に啖呵を切り、あれだけ手を焼いたマリアンヌを手懐けている。魔力も申し分なく、魔法を容易く使う。
 これだけ能力のある魔法使いを、野放しにしてはならないという想いもあったのかもしれないが、それよりもイリヤという女性をもっと知りたいと思ったのだ。だから、彼女と一緒になったのが、それも悪くはない。
 ただ、結婚生活の流れというものがわからず、初日から大失敗してしまったわけだが。
「……んっ」
 毛布を引き寄せて、彼女が身じろいだ。これはそろそろ目が覚める動きでもある。
< 110 / 216 >

この作品をシェア

pagetop