このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 彼女との結婚生活を続けるためには、心をわかり合わなければならない。その心が難しい。
 彼女の瞼がひくひくと動いて、ラベンダー色の瞳が現れた。
「おはよう」
「……っ」
 目が覚めると、すぐに人の顔を見て驚くのだ。けしてクライブが寝込みを襲ったとか、そういったことをしたわけではない。イリヤが勝手に寄ってきて、勝手にひっついて眠っているだけだというのに。
「……おはよう、ございます。えぇと、私は今日も?」
「今日もというか、ほぼ毎日だろう?」
「ご迷惑をおかけしております……」
 そう彼女は口にするが、クライブとしては迷惑だとは思っていない。なんだかんだで毎朝のこのやりとりすら、楽しみになっている。
「昨夜は、すまなかったな。いきなりで驚いただろう? それよりも、身体は辛くないか?」
 ぽっとイリヤの頬が紅色に染まる。
「やはり、熱でもあるのか?」
「ち、ち、違います。大丈夫です……閣下、その……少しだけ離れていただけませんか?」
 無意識のうちに彼女の身体を抱き寄せていた。その手を離すと、イリヤは毛布の中で距離を取った。
 身体の調子は良さそうだ。いつもの彼女である。
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