このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 ベッドの上でおすわりしているマリアンヌは、返事をするかのように声をあげた。最近ではこうやって一人でしっかりとおすわりもできるようになった。それでも押されればバタンと倒れてしまうので、アルベルトが近くにいるときには誰かが目を光らせている。
 ごめんなさいと謝ったアルベルトだが、謝ったからと言って次はやらないというわけではない。あれ以来も、何度も同じことを繰り返そうとしていた。
 子どもは、大人が思うよりも物事を覚えていない。そして、心の中の妄想すら、現実と区別がつかなくなるもの。それをしっかりと正しい道へと導いていくのが、周囲の大人の役目でもある。
「はい。あのあとは朝までぐっすりと。いったい、マリアンヌお嬢様もどうされたのでしょうね?」
 言葉で意思疎通ができない分、ああやって泣くしかない。
 おそらくマリアンヌは生後十ヶ月程度。この時期は夜泣きに悩まされる者も多いと聞くし、イリヤの一番下の妹もよく泣いていた。成長していくうちに、何か不快なことや興奮したことがあるのだろうが、言葉が伝わらないためよくわからない。
「そうね。成長している証ね。着替えてくるわ。マリーをお願いね」
 マリアンヌの元気そうな顔を見て、心が軽くなった。昨夜は体調を崩してくずっていたわけではないのだろう。それがわかっただけでも一安心だ。
 私室に戻ったイリヤは、サマンサを呼ぶ。今日は登城の日ではないから、身体をしめつけないようなゆるいドレスを選んだ。
 実は身体も少しだけだるい。昨夜、暴れるマリアンヌを取り押さえ、彼女がめちゃくちゃにした部屋を直したからである。もちろん、それは魔法を使って。
 ただそのときに、思っていたよりも魔力を消費してしまったらしい。いきなり身体が重くなって、立っていられなくなった。それをクライブが抱き上げて部屋まで運んでくれた。
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