このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「おはようございます」
「あ~あ~」
 イリヤの言葉に合わせて、マリアンヌも声をあげると、クライブの顔はゆるむ。
「ああ、おはよう」
 先ほども挨拶したが、マリアンヌがいる前でも挨拶をするのが日課となっている。
 イリヤはマリアンヌを隣の椅子に座らせた。これはマリアンヌ用にと高さを合わせ、落ちないようにと固定してある椅子である。
「あ~あ~あ~」
 最近のマリアンヌは、ここに座ると食事ができることを覚えたのか、両手をぶんぶんと振り回す。
「マリアンヌは、朝から元気だな。昨日のことなど、覚えてはいないんだろうな」
「この頃には多いようですから、気にしてはなりません」
 マリアンヌに食事を与えるのは、イリヤの役目である。これは、イリヤ自らが望んだこと。
「旦那様」
 マリアンヌの口元をぬぐいながら、イリヤはクライブを呼んだ。視線は彼には向けない。
「昨夜のこと。お引き受けします」
 近くにはナナカやチャールズもいるため、伝える言葉は最小限である。それでも彼は、この言葉の意味を理解したはずだ。
「……そうか」
 彼に伝えるのであれば早いほうがいいと思った。
 クライブはこのあとは王城へと向かってしまうし、そうなると返事は夜になる。その間、もだもだと一人で考え込むのが嫌だった。こうやって彼に伝えておけば、イリヤ自身の覚悟が決まる。
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