このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 さわりと人の気配がして目を開ける。
「は?」
 目の前にクライブがいる。今はまだ、服を着ている。レースのついたシャツの上に、いつものテイルコートを羽織っていた。
「目が覚めたか? 迎えにきた」
「むはえ?」
 寝起きのためか、口が上手く回らない。
「昨夜の件。陛下、直々に話をしたいそうだ」
「今から!」
 イリヤの目がぱっと覚めた。今から登城するのであれば、着替えなければならない。
「着替える必要はない。マリアンヌもおいていく」
 あのエーヴァルトと会うというのに、マリアンヌを置いていってもいいものなのか。
 先ほどからクライブは、イリヤの心を呼んでいるかのように言葉を続けている。
「マリアンヌがいると、マリアンヌに気が取られてしまって、大事な話ができない。チャールズにもイリヤを王城へ連れていくことは伝えてある。もちろん、マリアンヌはおいていくことも。何かあれば、すぐに連絡がくるから」
「は、はい」
 急いでサマンサを呼び、乱れた髪を直してもらい、ドレスの上にショールを羽織ってから屋敷を出た。
 馬車の中では、クライブがいきさつを説明する。馬車の中であれば、御者にまで声は届かない。
「イリヤがマリアンヌの代役を引き受けてくれたと陛下に報告したのはよかったのだが。同じタイミングで、やはり聖女召喚をという話が大きくなってきたようでな。議会でも議題にあげるという話になった」
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