このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「番号が一五四三七ね。あ~求人、あるわね。そして、決まってない。っていうか、これ。場所が王城じゃないの?」
「そう、そうなんですよ。それに仕事内容も、家庭教師って。最高じゃないですか」
 今まで家庭教師をしてきたイリヤにとっては、慣れた仕事でもある。
「条件も悪くないわね。あなたにぴったり。だけど、王城での仕事をここに依頼なんて、今まであったかしら?」
 カミラは不思議そうに首を傾げるが、イリヤにとっては早く紹介状を書いてもらいたい。
「カミラさん。私、この仕事、受けますから。早く、紹介状を書いてくださいよ」
「わかった、わかった。王城といっても広いし、もしかしたら使用人たちの子の家庭教師かもしれないものね」
 どうやらカミラは、家庭教師先を心配しているようであった。確か、マラカイト国王には王子が一人いたはず。その王子もまだ三歳であるため、家庭教師をこのような紹介所で探すのもおかしな話である。
 となれば、やはりカミラが言ったように、使用人の誰かの子の家庭教師と考えるのが無難だろう。
 残念ながら求人票には、そこまで書いていなかった。
『求む! 家庭教師。子どもの相手が得意な方。性別年齢国籍問わず。住み込み可。詳細は面接にて』
 そこにお給金が書いてあり、イリヤの心を鷲づかみにした。
「はいはい、紹介状。書いたわ。あなたのこと、べた褒めしておいたし、見た目と噂と違って初心って書いてあげた」
「ありがとうございます。では、いってきます」
「うん。もう、二度とここにはこないでね」
 カミラは手を振って見送ってくれたが、そんな彼女が「でも、あの子が手にしていたあの紙……何も、書いてなかったよね? 白紙だと思ったんだけど……」と、イリヤの背に向かって呟いたのは、もちろんイリヤには届いていない。
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