このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「ほうほう。クライブもそのような顔ができるようになったか」
 どんな顔なのかと思って、クライブの顔を見つめてみるものの、そこにはいつもの彼の顔があった。
「閣下。どうされました? このお菓子、美味しいですよ」
「オレたちはお菓子を食べにきたわけではないだろう? 陛下、さっさと説明してください。イリヤだって暇ではないのですよ」
 はいはいと答えたエーヴァルトは、やはり楽しそうに笑っていた。
「イリヤ嬢。クライブから聖女身代わりの話は聞いているな? それを引き受けてくれたと」
「はい。マリアンヌが聖女である以上、新しい聖女は望めない。ですが、皆、聖女を求めている」
「その通りだ。マリアンヌが聖女だと公表するという案も出たが、そうなれば逆にがっかりする者もいるかもしれないし、なによりもマリアンヌが狙われる可能性もある」
 それは聖女を手に入れたいと思う者がいるからだ。聖女の力を我が物にし、この国を乗っ取ろうと考えている者も少なからずいる。
「だから、我々はマリアンヌの代役を立てることを考えたのだよ。もちろん、それはイリヤ嬢。君しかいない」
 ぴしっとエーヴァルトがイリヤを指さした。その指を、腰を浮かしたクライブが掴む。
「痛い痛い痛い痛い、クライブ。何をする」
「人に指を向けるな!」
「はいはい。君も、イリヤ嬢のこととなると余裕をなくすのだな」
 くくっと喉の奥で笑う。
「神官長とも聖女召喚の儀について相談した。代役を立てる件もな。召喚の儀の秘匿性については、クライブから聞いたか?」
「はい」
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