このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 召喚の儀に立ち会える者は必要最小限。その儀式に立ち会った者が聖女と認めれば、その者は聖女となる。聖女の力を感じることもできるのも、神官長や魔力の高い魔法使いなど、神やら魔法に通じる者たちだけ。
「彼らはこちらの味方だからな」
 その言い方が、何か悪いことを企んでいるかのよう。いや、悪いことに違いはない。これからこのマラカイト王国の国民全部を、いや近隣諸国すら騙そうとしているのだから。
「今回は、皆が皆、聖女を待ち望んでいる。そのため、召喚の儀を行っている間は別室に口うるさい奴らを待たせておこうと思う」
 それもクライブから聞いた。だからこそ失敗できないと思っているのに。
「聖女召喚の儀を行うが、そこで召喚されるのはイリヤ嬢、君だ」
「え?」
 クライブから何度も聞いている話と異なる。マリアンヌは赤ん坊であっても聖女である。だから召喚の儀を行えば、どこにいようともマリアンヌが召喚されると。
「正確に言うならば、マリアンヌを抱いたイリヤ嬢だ。あ、おんぶでもよいぞ?」
 どういうこと? とイリヤは首を傾げる。
 クライブがやれやれとでも言いたそうに肩をすくめてから、言葉の先を奪った。
「マリアンヌが召喚されたとき、マリアンヌだけではなかった。彼女は服を着ていた」
 さすがに真っ裸で召喚されたら、された側も嫌だろう。マリアンヌの場合は、赤ん坊で自我すら芽生えていないから問題ないかもしれないが。
「つまり、聖女が触れているものは共に召喚できるらしい。だから、召喚の儀が行われる時間帯に、イリヤがマリアンヌを抱いていればイリヤごと召喚できると考えた。まあ、神官長と魔法使いたちの言い分だ」
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