このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 クライブは眉間に深くしわを刻んだ。
「そんなの、決まっているじゃないですか。私と閣下の雇用契約です」
 それを聞いたエーヴァルトが盛大に笑っていた。

 帰りの馬車の中では、クライブがずっとイライラしていた。まだ日が高いというのに、イリヤが帰ると言ったらクライブがついてきたのだ。
 イライラするくらいなら、ついてこなければいいのに。
「閣下、どうかされました?」
 イリヤとしては、イライラしたままマリアンヌに会ってほしくない。
「どうもしない」
「どうもしないって、明らかに怒っていらっしゃいますよね?」
「そういうつもりはない」
「そうですか?」
 イリヤは穴があくくらいにじぃっとクライブを見つめる。
 クライブはその視線から逃れるように顔を背けたが、あまりにもイリヤが見てくるものだから根負けしたようだ。
 はぁ、と大きく息を吐く。
「閣下。ため息をついたら、幸せが逃げていきますよ」
 イリヤが微笑むと、クライブは困ったような視線を向けてきた。
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