このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 臨機応変と言われても。
「これからイリヤは聖女として生きていくことになる。そのとき、イリヤはオレの妻であると公表する」
「えっ?」
 これはいろんな意味で初耳である。クライブが結婚したことはやはり公にされていなかったのだなというのと、それを公表する事実と。マリアンヌの母親であればよいとさえ思っていたから、クライブとの関係は必要最小限のところに知られていればよいとも思っていた。
「聖女であれば、さまざまな者たちから狙われる。いろんな意味でな。だから、伴侶がいたほうが周囲も諦めがつく」
 いったい何に対して諦めさせるのかもわからない。
「イリヤ。毒婦とか悪女とか、そういった噂を立てられたことを忘れてはいないな?」
「そうですね。そんなこともありましたね」
 マリアンヌのおかげか今の生活が充実しすぎて、すっかりと悪意ある噂の存在を忘れていた。
「そういった噂が立つくらい、イリヤは、その……まぁ、あれ、あれだ……」
 急にクライブがあたふたし始めた。ほんのりと顔を赤くしている。
「どうかされました?」
「いや、こういった言葉を口にするのは恥ずかしいのだと思っただけだ」
 銀縁眼鏡をかけているクライブは、どこか冷たい印象を受ける。それなにの彼は今、動揺している。
 どんな恥ずかしいことを言われるのか。毒婦と言われていたくらいだから、卑猥な言葉だろうか。
「とにかく。イリヤは美人なんだ。見る者を惹きつける。その自覚を持ってほしい」
「はぁ? な、何をおっしゃっているのですか……閣下……」
< 126 / 216 >

この作品をシェア

pagetop