このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 面と向かって美人と言われたら、イリヤだって恥ずかしくなる。むしろ、卑猥な言葉を投げつけてもらったほうが、言い返せる分、気は楽だ。
「と、とにかく。オレとの結婚は公表する。今回の瘴気の件も落ち着いたら、式を挙げる。そのつもりでいろ」
 そのつもりと言われても、これは雇用契約であって契約結婚である。
 そう思っているのに、イリヤの心臓は先ほどからトクトクとうるさい。
「だから、イリヤ。オレたちはもう少し、夫婦に見えるような関係になったほうがいいと思うのだが?」
「それは、そのときに対応します」
 暴れる心臓を抑え込むように、イリヤは胸に手を当てる。
 急にクライブが立ち上がったため、イリヤは驚いて身体を震わせた。そんな彼は、イリヤの隣に座り直す。
「ち、近いです。閣下……」
「クライブと……名前で呼べ」
「む、無理です」
 呼ぶか呼ばないかではなく、無理なのだ。
 途端にクライブの顔が曇った。 
「どうして無理なんだ?」
 とにかく、鼓動がうるさかった。近くにいるクライブに聞こえてしまうのではないかと、不安になるほど。
「そ、そんなの。恥ずかしいに決まってるじゃないですか!」
 イリヤは両手で赤くなった顔を隠した。これ以上は、何も言えない。
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