このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 作り笑いを浮かべて、イリヤは答える。ただ、こうやって答えてしまった以上、今後はクライブに「雑菌」と言えなくなるのが悔しい。
「まんま~まんま~」
 クライブが、ひくっと身体を震わせる。
「今、ママと言わなかったか?」
「気のせいです」
 最近のクライブは、マリアンヌに対する執着がエーヴァルトに似てきている。
「マリー、パパと言ってくれ」
「まんまんまんま~」
「パパ」
「まんまん~」
「パパ」
「旦那様! マリーはまだおしゃべりができません。しつこい男は嫌われますよ」
 マリアンヌを腕に抱くイリヤは、彼に背を向けた。
 とにかく、クライブがおかしい。イリヤがマリアンヌの代わりに聖女になると答えた昨夜からだ。いつもよりも絡みが多い気がするし、何よりも執拗に名前を呼べと迫ってくる。
 そこまで言われると、頑なに呼んでやるものかという対抗心が芽生えてしまうのだ。
 クライブに主導をとられるのが、ちょっと悔しいから。
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