このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 そしてイリヤは、求人票と紹介状を持って、王城に向かって嬉々として歩いているのであった。
 本来であれば馬車を使えばいいのだろうが、そんなお金、もったいなくて使えない。歩けない距離でもないし、毎日片道三十分、往復一時間も歩き、掲示板の前で何時間も突っ立っていたイリヤにとって、紹介所から王城までの片道一時間半の距離を歩くのは、大したことでもなかった。
 王城は、侵入者から守るために堅く門が閉じられていた。その前に立つ騎士にイリヤは声をかける。
「あのぅ。こちらの求人を見てきたのですが……」
 王城に入るためには、この門を開けてもらう必要がある。
「求人?」
 聞いていたか? と、門扉を守る騎士たちが数人、集まって話し始めた。
 この隙に門をくぐってしまおう。
 と、そのようなことができるほど、警備がゆるいわけでもない。やはり門は、堅く閉ざされている。
「その求人票を見せてもらってもいいか?」
 がっしりとした体躯の騎士が、じろりとイリヤを見下ろした。
「は、はい……」
 頭二つ分大きいような男からこうやって見下ろされると、萎縮してしまう。
 イリヤは身を縮めながら、紹介状と求人票の二つを大きな男に手渡す。
「紹介状は……本物だな。求人票は……ん?」
 数人の騎士たちは再び頭を寄せ合って、イリヤが渡した求人票を確認している。
 もしかして、すでに他の人に決まってしまったのだろうか。
 この仕事だけが頼りだというのに。
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