このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「ま~ま~」
 マリアンヌがイリヤの頬をぺちぺちと叩いた。
「マリー、今、ママって呼んだ?」
 イリヤもクライブのことを言えたものではない。
「ま~ま~ま~」
 ふわふわのマリアンヌをぎゅっと力強く抱きしめる。
 マリアンヌの甘いにおいを嗅いでいたら、ものすごく眠くなってしまった。昨日の魔力切れの件がきいているにちがいない。だからマリアンヌと一緒に昼寝をすることにした。
 寝て目が覚めれば、きっと気持ちも落ち着いているだろうと思いつつ、マリアンヌをあやしながら瞼を閉じると、先ほどの王城でのやりとりがまざまざと思い出された。
 マリアンヌの代わりに聖女となると言ってしまったが、イリヤだって何も考えなしに言ったわけではない。マリアンヌをどうしても守りたかった。
 異世界からやってきた赤ん坊であり、イリヤとは血の繋がりもないし似てもいない。
 それでもこうやって過ごしているうちに、情はわく。笑って、声をかけてもらえるだけで、心が満たされる。それはマリアンヌの愛嬌のせいかもしれない。だからこそ、何がなんでもマリアンヌを手放したくないし、彼女の成長を見届けたい。
 きっと、イリヤはそういう性分なのだ。妹たちの生活のためにあの家を出たように。
 しかしイリヤは、はっとする。
 マリアンヌは、元々はどこの子なのだろう。マリアンヌの本当の母親は? 家族は?
 イリヤがマリアンヌを失うことを恐れているように、マリアンヌの母親は彼女を失って悲しみに暮れていないだろうか。
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