このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 ちくりちくりと胸に針が刺さるように痛んだ。
 マリアンヌが眠ったのを確認してから、イリヤは寝台を出た。
 ナナカに声をかけてから、クライブの執務室へと向かう。胸の奥が苦しくて、痛い。
 扉を叩くと、すぐに返事があった。
「……あの。閣下……」
「どうした? マリーと昼寝をしていたのではないのか?」
「そうなんですけど。横になったら、ちょっと目が冴えちゃって」
 クライブは少しだけ微笑んだ。
「そこに座れ。今、お茶でも淹れよう」
「あ、いいです。すぐにマリーのところに戻りますから」
「そうか?」
 不思議そうに首を傾げてから、クライブはイリヤの隣に座る。
「ですから。近いです、閣下」
 口ではそう言うが、本当はこうやって熱を感じる距離に彼がいてくれることが心強くもある。
 彼はまた笑みを浮かべてから、少しだけ距離をとった。拳二個分。
「何があった? 何か悩み事か?」
「え?」
「昨夜。イリヤはオレの悩み事を聞いてくれただろう? だから次は、オレがイリヤの悩み事を聞く番かと」
「あ、あぁ。そうですね」
< 131 / 216 >

この作品をシェア

pagetop