このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
第六章:そのお仕事、お引き受けいたします
 イリヤに言われるまで気づかなかったわけではない。考えないようにしていただけだ。
 マリアンヌがどこからやってきたのか。彼女の家族はマリアンヌを失って悲しみに暮れていないか。
 だけど、彼女を召喚したときのあの事実が、聖女召喚を正当化していた。
 まるで魔物に襲われたかのような傷跡が、身体中にあったのだ。擦り傷よりは殴られた傷跡のほうが多かった。いったいどのような魔物か。どこからやってきたかわからないうえに、言葉も通じない。
 人の姿を見ると怯えて泣いて、周囲をめちゃくちゃにしていた。最初はミルクを飲むことすら嫌がっていたが、空腹には勝てなかったようで、次第にミルクは飲むようになった。
 ミルクを飲んで寝て、起きると暴れる。それの繰り返しだった。
 最初は根気強く付き合っていた乳母であったが、彼女の魔力が強くなっていくうちに投げ出した。誰だってあれを目の当たりにしたら逃げ出したくなるだろう。ただでさえ、魔法という見慣れぬものを見せつけられたのだ。
 それでも彼女を召喚してしまった責任と、彼女に聖なる力があるという事実が、マリアンヌを守っていた。そうでなければ、元いた場所に戻す――つまり送り返すという選択をしていたかもしれない。
 彼女の世話にほとほと困っていたというのに、それでも手放せなかった。
 ときおり見せる笑顔に、エーヴァルトは心を奪われたようだ。国王の心を奪うとは、なかなか賢い赤ん坊だと、クライブも感心したものだ。
 だけど、手がかかる。
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