このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 *~*~*

 幅広の布を肩から斜めにかけて、ハンモック状になった部分にマリアンヌを入れる。クライブがどこからか情報を仕入れて、手配してくれた抱っこ紐である。マリアンヌがぴたっとイリヤに密着しているから、彼女の体温を感じられる。
「まんまぁ?」
 抱っこ紐の中でマリアンヌは手を振り回していた。機嫌がよい。
 クライブは、今日の昼過ぎに聖女召喚の儀を行うと言っていた。そこで召喚されるのは、マリアンヌを抱っこしているイリヤである。いや、イリヤに抱っこされているマリアンヌか。
 とにかく、昼過ぎからはマリアンヌとこうやってくっついている必要があった。
「パパ。まだですかね~?」
 昼過ぎとしか聞いていないし、召喚されるとはどのような感じであるかもわからない。
 ただ待っているだけというのは、意外と暇というか手持ち無沙汰というか。何をしたらいいかがわからない。
 とにかく、落ち着かなかった。できるものなら、さっさと終わってほしいとすら、思えてくる。
 チャールズやサマンサたちには事情を伝えている。突如、イリヤとマリアンヌが屋敷からいなくなるのだ。何も言っておかなかったら、彼らだって驚く。
「ぱ、ぱ、ぱ、ぱ、ぱぁ~」
 最近のマリアンヌは、こうやっていろんな言葉を発するようになった。まだ歩くことはできないが、高速ハイハイで部屋の隅から隅を移動するから、ナナカも大変そうだ。
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