このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 クライブと出会ったときに放った「一人でも大丈夫」という言葉を撤回したいくらい。
 イリヤが部屋をうろうろと歩きながら、マリアンヌの背をぽんぽんと叩くと、次第に静かになっていく。このままではマリアンヌは眠るだろう。
 いつ呼ばれるのか。イリヤが思うのはそればかり。
「まったくもう」
 室内に誰かいるわけでもないのに、文句を言いたくなる。
「パパ。まだですかね~?」
 もう一度マリアンヌに問うが、もう返事はない。眠ってしまったようだ。抱っこ紐のおかげで、マリアンヌを抱いていてもさほど重くはないいのだが、イリヤも待ちくたびれてしまった。そのまま、ソファに座る。
 ぱっと世界がかわった。
「おぉ~」
「召喚の儀は成功しました」
「聖女様……」
 イリヤはぱちぱちと瞬く。目の前には、神官服の男性とローブ姿の男たち。そして少し離れた場所にエーヴァルトとクライブがいる。
「え?」
 まさか、本当にクライブの屋敷から移動するとは。しかも、イリヤは何もしていない。ソファに座ったら、場所が変わったのだ。
「他の者を呼んできます」
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