このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 知っているくせにそう尋ねるエーヴァルトがわざとらしいのだが、これも彼らの作戦のうちなのだろうか。
「陛下には伝えていたような気がするのですが? 結婚したから、マリアンヌを引き取ると」
「そうだったか?」
 素人役者が二人、わざとらしい芝居をしている。神官長も魔法使いたちも間違いなくグルである。
 後から現れた男たちは、イリヤとマリアンヌをじぃっと見ている。
「……まさか、聖女様が閣下の奥方であったとは」
 神官長の言葉を確かめるかのように、魔法使いたちは何かの力を感じ取ろうとしていた。恐らく、聖なる力を探っているのだろう。瘴気を祓うだけの力があるかどうか。
「神官長。間違いなく、彼女は聖女様でいらっしゃいます。聖なる力を感じます」
 一人の魔法使いの言葉に、残りの二人も頷く。
 彼らが言っていることは、ある意味間違いではない。その場に本物の聖女がおり、その彼女が聖なる力を持っているのだから。
「イリヤが、聖女だったのか……?」
「クライブ様、これはいったい?」
 イリヤも猿芝居にのることにした。
「まんま~、ぱっぱ~」
 いつの間にか目を覚ましたマリアンヌは、見知らぬ場所に来たというのにご機嫌であった。いや、彼女にとってはこの場に来るのは二回目のはず。
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