このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「聖女様が、閣下の奥方だと?」
「イリヤ……聞いたことのある名だな……」
「マーベル子爵家の?」
「あの毒婦が?」
 口うるさいと言われている彼らは、本当にうるさかった。みな、好き勝手にいろいろと口にする。
「イリヤ。陛下から話があるから、こちらに来てくれないか?」
「え、と……クライブ様。私はどうしてここに? 先ほどまで、お部屋にいたはずなのですが……」
 イリヤの演技にクライブも困惑している様子。どうやら彼は、アドリブは苦手なようだ。
「なるほど。イリヤ嬢は部屋にいたところ、突然こちらに呼び出されたということだな?」
 うんうん、とエーヴァルトは頷いている。さすが国王なだけのことはあって、演じるのは得意なのだろう。
「聖女召喚の儀は成功した。さらに聖女様は、宰相クライブの奥方であることがわかった」
「何かの間違いではないのか?」
 そうやってイリヤの力を疑う声があがった。こうなることも、エーヴァルトもクライブも想定済みだった。だからこそ、聖女の身代わりにイリヤが選ばれたのだ。
「イリヤ。どうやら君は聖女様のようだ。だが、この場にいる彼らは君を聖女とは認めたくないようだ。何かこう、力を使うことはできないか?」
「力?」
「そうです。聖女様」
 声を張り上げたのは神官長である。
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