このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「聖女様には聖なる力があるはずです。何かこう、力を感じませんか?」
「力ですか?」
「はい……こう、胸が熱くなってくるといいますか。みなぎってくると言いますか。ほら、指をパチンと鳴らしてください」
 イリヤは神官長の言葉に従って、指をパチンと鳴らす。すると、周囲に花びらがポン、ポンと生まれて、それがひらひらと落ちていった。
「……聖女様だ」
 誰かが呟いた。
「イリヤ嬢は聖なる力を持っている……?」
 先ほどからそんなことを言っているのは、召喚の儀を行った魔法使いたちである。
「どうだ? 君たち。これでもイリヤ嬢が聖女様ではないと、疑うのか?」
 エーヴァルトが低い声で言い放つが、その言葉の節々には権力が見え隠れする。
「……いえ」
「まさか、聖女様がこの国にいらっしゃったと、それに驚いているだけです」
 言い訳がましく口にする彼らである。
「むしろ、聖女様が異界人ではなく、この国にいたことに感謝すべきだろう。異界人であれば、言葉が通じないという問題だってあるかもしれないしな」
 エーヴァルトのその言葉は、まるでマリアンヌのことを言っているようにも聞こえた。
「では、イリヤ。別室に案内する」
 クライブが、すっとイリヤの腰に手を回す。
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