このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「失礼します」
 クライブがアルベルトを抱き上げる。
 マリアンヌは自分の目の高さと同じくらいになったアルベルトに手を伸ばす。
 クライブもそれに気づいて、イリヤの隣に寄り添った。抱っこされている二人は、何が楽しいのか手をつないで、きゃっきゃと笑っている。
「あれですかね? フォークが転がっても面白い年頃というものでしょうか」
 イリヤの言葉に「そういうものなのか?」とクライブは首を傾げた。
 そこへ乱暴に扉を開いて入室してきた人物がいる。
 扉の開き方だけで、イリヤにはわかった。やってきた人物は間違いなくエーヴァルトだ。
「クライブ。いつの間に息子を産んだのだ? ってアルじゃないか。なんで君が私の息子を抱っこしている。アル、こちらに来なさい」
 エーヴァルトが両手を差し出すと、アルベルトはぷいっと顔を背ける。
「ぐぬぬぬぬ。アル。君の父親は私だ。そこの堅物眼鏡のクライブではない」
「おとうさま。ぼくがマリーとけっこんしたら、クライブはぼくの父にもなるわけです。今から、なかよくしておいたほうがいいと思います」
 三歳とは思えぬ発言であるが、クライブは笑いをこらえている。
「だそうですよ、陛下」
「ぐぬぬぬぬ……。まあ、いい。今はこれで勘弁してやる。それよりも、聖女イリヤよ」
 エーヴァルトはイリヤのことを聖女と呼んだ。
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