このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「悪いが、お披露目の儀が五日後に決まった。それを伝えにきたんだ」
「なんだって急ですね」
 クライブが眉をひそめる。
「仕方ない。あいつらが、さっさと聖女様を魔物討伐へ送り出せと言い始めたからな」
「それって、あれですかね? 聖女が異界から召喚された女性ではなくて、イリヤ()だったから……」
 だから嫌がらせのように、さっさと魔物討伐へ行けと言い出したにちがいない。
「聖女様は異界人でなければならないと思っている者は一定以上いる。イリヤの力を疑う者もいた」
 苦しそうにエーヴァルトが顔をゆがめた。
「そうですね。それは、仕方ありませんね」
 偽物の聖女ですから――
 イリヤはその言葉を呑み込んだ。それは、必要最小限の人物しか知らない極秘事項。軽々しく口にしていい言葉ではない。
「はやく魔物を蹴散らして、マリーと平穏な生活が送れるように、頑張るしかないですね」
「まっま~、まっま~」
 マリアンヌを手放したくないと決めたのはイリヤだ。だから彼女を守るために、聖女になりきるしかない。聖なる力はなくとも、魔物を倒すくらいならできる。ようは、魔物の数が減ったように見せかければいいのだ。多分。
「ところで、お披露目の儀とは何をするのでしょう?」
 それがまったくわからなかった。

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