このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 イリヤが聖女(代理)として召喚されてから、あっという間の五日間であった。
 今日は聖女として、人々の前に立つ初めての日である。
「なんだ、緊張しているのか?」
 夜が明ける前に目が覚めた。
 今日もまた、すっぽりと彼に抱かれて眠っていたようだ。しかもクライブは相変わらず半裸で寝ている。この状況にイリヤも慣れたものである。
「そうかもしれませんね、偽物だとバレないように振る舞う必要がありますから」
 偽物であることが知られてしまったら――それが怖かった。
 そうなれば、イリヤだけの問題ではない。聖女召喚の儀に立ち会った者たち、ファクト家に関わる者たち、そしてマーベル家の家族。みんなに迷惑をかける。いや、迷惑だなんて一言で済むような、そんなかわいいものではないだろう。
「大丈夫だ。イリヤならできる」
「だけど、聖女でないのに聖女と名乗って、みんなを騙すわけですよね……」
 一度やると決めたのに、それでもどこか怖じ気づいている自分がいる。
「騙す……そう考えるから、気が落ちるんだ。これは、必要な嘘だと思えばいい」
「必要な嘘?」
 嘘をつくのはよくないこと。人を騙すのはよくないこと。
 幼い頃から、そう教えられてきた。
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