このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「魔物の数が増え、人々の生活が脅かされてきている。それに希望を持ちたいと思う者はいるだろう。その者たちの願いを叶えるための必要な嘘。イリヤが聖女になりすますことで、これからの未来に絶望せずに済む者がいるかもしれない。偽善だって思われたってかまわない。オレたちは、どうやったら国にとって一番いいのかを考える。今は、国のためにも聖女が必要なんだ。例えそれが、偽物であってもな」
 トクントクンと力強い鼓動が聞こえた。これはクライブの胸の音。
「閣下も緊張されているのですか?」
「……そうかも、しれないな」
 言葉と共に吐き出された熱い吐息が、耳をかすめる。
「イリヤ……」
「なんでしょう?」
「魔物討伐から戻ってきたら、お前に求婚してもいいか?」
 きゅうこん――
 その言葉の意味がわからなかった。
 球根。一瞬、頭の中に塊状になった地下茎が思い浮かんだが、この流れで球根はおかしいだろう。だが、念のための確認は必要だ。
「きゅうこんって、その、あれですか? チューリップを植えたいと?」
「その球根ではない」
 クライブがイリヤを抱き寄せる。トクトクトクトと、彼の心音が聞こえた。先ほどよりも早いかもしれない。
「……イリヤに、正式に結婚を申し込みたい」
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