このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 それを確認したかった。もしかしたら、イリヤの盛大なる勘違いかもしれない。そうであれば、穴を掘って埋もれてしまいたくなるほど恥ずかしい。
「この感情がそういった種類のものであれば、好きなのだろう」
「どういう感情ですか?」
 もしかして、イリヤと同じような感情だろうか。
 相手をもっと知りたいと思い、この関係を続けていきたいと願うような。
「感情を言葉で説明するのは難しい」
 ふん、とクライブは鼻息を荒くする。それがどこか照れているようにも見えた。
 イリヤの胸が、きゅっと締め付けられる。
 嬉しいかもしれない。だけど、恥ずかしい。
「では、その求婚。受けて立ちます。閣下も、首を洗って待っていてください」
 これから聖女としてのお披露目の儀があるというのに、イリヤの不安は一気に吹き飛んだ。もしかしてクライブはそれを狙っていたのだろうか。
 二度寝する気にもなれず、イリヤはクライブの腕からするっと逃げ出した。
 失われたぬくもりにむなしさを感じつつも、今日はこれからが正念場である。
 クライブとの関係を続けていくためにも、そしてマリアンヌを守るためにも、一世一代の大芝居を打つ。
 背中にまとわりつくクライブの視線が気になりつつも、それに甘えてはいけないと自分に言い聞かせる。
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