このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 扉つづきの自室で一人になって、ぽふっとソファに身体を預けた。
 一人になって先ほどのやりとりを思い出すと、心臓が速くなる。
「求婚……」
 あのクライブが求婚すると言った。そう言ったのだ、間違いなく。イリヤの聞き間違いではない。それに好きとも言ったような気がする。
「あっ……」
 勢いまかせに口から出てきた言葉。もしかして、あれは間違いだったのではと思えてくる。
 だけど、嬉しさと恥ずかしさを誤魔化すためには、あれしか言葉が思い浮かばなかった。
 もしかして、もしかしなくても、彼に心を奪われている――
 一緒にいたい。この関係を続けていきたい。そう思うことが、きっとクライブを好きだという気持ちなのだ。
 認めてしまうと、一気に羞恥に包まれる。自分の未熟さと愚かさが露呈したような気分にすらなる。
 この複雑な感情はなんなのか。わからない。
 次第に外が明るくなり始め、イリヤはサマンサを呼んだ。
 今日は聖女として白いドレスを身につける必要がある。その上に白のローブを羽織るのだ。聖女といえば、白らしい。
 毒婦、悪女と噂されたイリヤから見れば、無垢なイメージの強い白は縁遠い色でもある。
 朝食用に簡素なドレスに着替え、マリアンヌの部屋に寄ってから食堂へと向かう。
 お披露目の儀には、マリアンヌを抱いて参加したいと、イリヤは告げていた。
 本来の聖女はマリアンヌである。彼女を連れていくことで、少しでも偽物という罪悪感から逃れたかったのかもしれない。
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