このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
第七章:新しいお仕事にはまだ慣れません
 イリヤが神殿のバルコニーから手を振ると、広場に集まった人々からは大歓声が沸き起こる。
 彼女を聖女の身代わりにと望んだのはクライブ自身であるのに、こうやって大勢の人の目にさらされると心の中にもやっとしたドス黒い何かが沸き起こる。
「聖女様~」
「聖女さまぁ」
 イリヤの後方には近衛騎士が睨みをきかせて立っているし、クライブもエーヴァルトと並んでイリヤを見守っている。神官長も近くにいる。
「あばばばばば~」
 イリヤは、マリアンヌを抱いて皆の前に立ちたいと口にした。それは、マリアンヌが本物の聖女であるから、彼女と共に立つことで後ろめたさから逃れようとしているのは、クライブにもひしひしと感じ取れた。
 酷なことを頼んでしまった。
 それでも今、この国には聖女が必要なのだ。それを理解してくれた聡明な彼女だからこそ、今のこの状況が、クライブには許せなかった。
 この気持ちを表す適した言葉は、間違いなく嫉妬である。
 イリヤを見つけたのはクライブだ。そして、聖女の代理を依頼したのもクライブ。
「あば、あば、あばばばっ」
 賑やかさにあてられたのか、心なしかマリアンヌが不機嫌なようだ。
 クライブはそっと前に出て、イリヤの耳元でささやく。
「……イリヤ、そろそろ」
 たったそれだけの言葉であるのに、彼女は理解してコクンと頷く。
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