このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 クライブが小声で尋ねると、彼女は顔をしかめた。
「え? このあと、お披露目パーティーですよね。つまり、クライブ様とダンスが……」
 何をいまさらとも思うが、彼女の視線はマリアンヌに注がれていた。
 さすがにダンスとなれば、マリアンヌを抱いたままでは不可能だろう。誰かに預けなければならないが、練習のときはナナカがみていた。
 しかし今日のパーティーでは、そこまで考えていなかった。
 目の前のエーヴァルトがニコニコしていたが、気づかぬふりをした。

 *~*~*

 神殿から王城への移動は、馬車を使う。腕の中にマリアンヌはいるものの、隣にクライブはいるし、目の前にはエーヴァルトと神官長もいるし、そしてこの馬車の周囲は近衛騎士とか王宮魔法使いとかに囲まれている。
 いつもの移動とは異なる。
 それだけでも、イリヤの気持ちはピリリとした。
 聖女として皆の前に立った。これでもう、後戻りはできない。
「……あばぁ」
 マリアンヌが目を覚ました。彼女がまたたくだけで、この場が和む。
「まんま、まんま!」
 伸びてきた小さなふくふくとした手が、イリヤの頬に触れた。
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