このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 エーヴァルトもクライブが、視力が悪くて眼鏡をかけているわけではないのを知っているようだ。昔からの馴染みのような関係であるから、この二人の間には隠し事もないのかもしれない。
「それに、これからイリヤ嬢のお披露目パーティーだ。君がエスコートするのだろう? クライブ」
 その予定である。契約とはいえ、イリヤはクライブと夫婦なのだ。そしてクライブは、これを機にイリヤとの婚姻関係を知らせると言っていた。だからクライブほど、エスコートに適している人間はいないのだが。
 イリヤはちらりと隣に顔を向けた。マリアンヌはまだ頑張って、クライブに手を伸ばしている。
「クライブ様。やはり眼鏡を外しましょう」
 イリヤの言葉に、クライブは眉根を寄せる。
「なんだ? 眼鏡は不満なのか?」
「そうではなくて、ですね。マリーが、ほら。また、眼鏡をつかんで投げますよ? そのうち、マリーが眼鏡を壊すと思うんですよね」
 そう言ったところで、またクライブが眼鏡を外した。たったそれだけなのに、彼の雰囲気ががらりと異なる。
「う~」
 マリアンヌは眼鏡のないクライブに不満な様子。
 そうやってクライブの眼鏡で盛り上がっていると、王城に着いた。
 クライブは眼鏡を上着の内側にしまい込み、マリアンヌを片手で抱き上げた。空いている手をイリヤに差し出す。
 イリヤはためらわずにその手を取る。
 これから相手をするのは、クライブもエーヴァルトも口うるさい奴らと幾度となく愚痴っていた相手である。
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