このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「お美しいです、聖女様」
 姿見にうつる自分を見て、イリヤ自身もほぅとため息をついた。
 さすが、毒婦とか悪女とか、悪意ある噂が立っただけのことはあった。このようにきっちりとコルセットをつけてドレスを着たのは、いつ以来だろう。
 先ほどの部屋へと戻ると、マリアンヌはクライブに抱っこされてお菓子を食べていた。どうやら、もので釣ったらしい。
「まんま……?」
 さすがのマリアンヌもイリヤの変身ぶりには戸惑いを見せた。それよりも、クライブだ。人をじっと見つめたまま、口を開けて呆けている。そして、眼鏡はかけていない。
「クライブ様?」
「す、すまない……」
 眼鏡がないせいか、彼の顔がみるみるうちに赤く染まっていく様子がよくわかる。
「では、閣下も」
「は?」
 侍女に立つように促されたクライブは、何も知らないというように首を振る。
「陛下からは、閣下もとうかがっておりますが?」
 してやられたと、クライブの顔は言っていた。
「聖女様がこのようにお美しいのですよ? お嬢様も」
「だぁ?」
 にかっとマリアンヌが笑顔を向け、クライブはしぶしぶと席を立った。
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