このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 イリヤのドレスは、色は華やかであるが、胸元の飾り付けは派手ではない。だから、マリアンヌを抱き上げることもできる。
「お嬢様も、少しだけお直ししましょうね」
 マリアンヌも、イリヤのドレスの色と同じ深緑のリボンで髪が結ばれた。
「あ~う~」
「マリー、かわいいわね。よく似合っているわ」
 褒められてマリアンヌも悪い気はしないのだろう。さらに愛嬌を振りまいている。
 マリアンヌと戯れていたら、クライブが戻ってきた。
「え?」
 思わずイリヤがそう声をあげてしまったのにも理由はある。
 彼は眼鏡をかけていない。さらに、いつも後ろにすっとなでつけている髪も、前にたらしている。
「誰?」
「だぁ?」
 とにかくいつものクライブではない。前髪をおろしたことで、一気に幼くなった。眼鏡がないことで、知的さよりも顔の造形のよさが際立つ。
「な、なんだ。笑いたければ、笑えばいい」
 視力が悪いわけでもないのに眼鏡をかけていた。
 昔は女の子と間違われるほどのかわいらしい顔立ちをしていた。
 そして、今のこの態度。
 イリヤには、ピンとつながるものがあった。
< 171 / 216 >

この作品をシェア

pagetop