このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「やはり、ナナカも連れてくるべきだったかしら?」
「なんだ? マリアンヌの母親になったときは、ひとりで世話ができると言っていただろう?」
 まさか、そんな古い話を出されるとは思ってもいなかった。よっぽど根に持っているのだろうか。
 むっと膨れてクライブに視線を向けると、彼は微笑みながら見下ろしてくる。
 しかも、眼鏡がない。
「冗談だ。そのためにオレも来たんだから、ひとりで無理だと思うときは、オレを頼ってほしい」
 卑怯である。
 この状況でそのようなことを言われたら、ときめかないわけがない。みるみるうちに顔が赤くなる自覚があった。
「……おい」
「な、なんでしょう?」
「そ、そんな顔をするな」
 そんな顔と言われても、どんな顔をしているのかわからない。だけど、なぜかクライブが動揺している。
 クライブの手がイリヤの頬をなでる。そんなことをされたら、いろいろと期待してしまう。そして何かを期待している事実にすら戸惑う。
 もう、わけがわからない。
 クライブの顔がゆっくりと近づいてきた。
「だぁ~」
「あっ!」
 イリヤの声にクライブは驚いて顔を引いた。
「クライブ様。見ました? 見ましたよね?」
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