このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「あっ、ああ……」
 この興奮を共有するかのように、イリヤはクライブの両腕をがっしりと掴む。
「今、マリーが立ちました。ひとりで立ちましたよね? 手もはなしていましたよね?」
「……立ったな」
 イリヤはクライブを突き放して、マリアンヌのもとに駆け寄った。彼女はすでにお尻をでんとついておすわりをしている。
「マリー」
 小さなマリアンヌは、きょとんとイリヤを見上げた。何があったの? と、そう言いたげな表情である。
 そんな彼女を抱き上げる。
「マリー。すごい! もうちょっとでひとりで歩けるようになるわね」
 そのときがマリアンヌの一歳の誕生日となる。
「あんまんま~」
 ぎゅっと抱きしめると、マリアンヌも満面の笑みを浮かべる。
「嬉しいような、寂しいような気がしますね」
「そうだな……」
 クライブはイリヤから目を反らさない。あまりにもの真剣なその表情に、またイリヤの鼓動は速くなった。
「ぱぁぱ?」
 マリアンヌはクライブに向かって手を伸ばして、おいでおいでと振り始めた。
「マリアンヌ、どうした?」
「マリーは、クライブ様が眼鏡を外してから、すっかりとなつきましたね?」
 マリアンヌはイリヤの腕からクライブの腕へとうつる。
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