このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「ぱぁぱぁ~」
 何を思ったのか、クライブの頬をぺちぺちとたたき出した。
「マリアンヌ。こら。たたくんじゃない。人をたたくような悪いおてては、こうやって食べてやる。あむ」
 クライブがマリアンヌの手をつかまえて、口の中にいれようとすれば「い~や~、い~や~」と手を振り回した。もちろん、クライブにとってマリアンヌの力など造作もない。
「マリー。こっちのおててはママが食べちゃうよ」
 もう片方の手をイリヤがつかみ、口元へ運ぼうとすると、マリアンヌは「や~や~」と高い声を出す。これは嫌がっているわけではなく、喜んでいるときの声色だ。
「……楽しそうだな」
「ひぃっ……」 
 この部屋にいるはずのない人間の声が聞こえ、イリヤはおもわず変な声をあげてしまった。
「陛下。陛下のお部屋はあちらです」
「だぁだぁ」
「だって、私だけひとりで寂しいんだもん」
「だもんって……かわいく言ったとしても、かわいくないからやめろ!」
「あだぁあだぁ」
 あまりにもクライブとマリアンヌの息がぴったりすぎて、イリヤは目を丸くした。似たもの親子。
「陛下がそうやってわがままばかり言うから、後ろの護衛、困ってるだろうが!」
 クライブが言うように、エーヴァルトの後ろにはおどおどしている近衛騎士の姿が見えた。
「私だって、マリーと遊びたい。マリーの小さな手を食べたい……」
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