このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 チッとクライブが軽く舌打ちをした。彼は拒絶したがっているのだが、立場上、それができないのをわかっている。それゆえの舌打ちなのだ。
「少しだけならいいです。マリアンヌだって、風呂に入って寝なければなりませんからね。子どもは早く寝るものです」
「マリアンヌ……風呂……」
「却下!」
「ひどい、クライブ。私はまだ何も言っていないじゃないか」
「言わなくてもわかるわ。とりあえず、今のところはお引き取りください」
 そう言ってクライブは、騎士たちに目配せをした。彼らは、三人がかりでエーヴァルトを引きずって部屋から出ていった。
 クスクスと笑っているのはイリヤである。
「何が面白い?」
 そう尋ねたクライブは、面白くないのだろう。
「いえ……エーヴァルト様、夕食のあとに部屋にいくって。ほら、学院での宿泊学習みたいだなって。そう思っただけです」
「なるほど。あいつとカードゲームでもすればいいのか?」
 クライブにもそのような思い出があるのだろうか。
「それは……やめましょう。エーヴァルト様のことですから、長居するのに決まってます。クライブ様もおっしゃったように、マリアンヌの寝る時間がありますから」
「そうだな。とにかく部屋に来たら、何かと理由をつけて追い返す」
 エーヴァルトは本当に夕食の後に、部屋にやってきた。しばらくは、にやけた顔でマリアンヌを愛でていたエーヴァルトであるが、彼女が不機嫌になってきたところでさっさと自室へと引き上げた。
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