このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
第八章:これは雇用契約なので溺愛は不要です、と思っていたはずなのに
 澄み切った青空がどこまでも続いており、行楽日和といえるような天気である。しかし、今日は行楽ではなく、魔物討伐のために森へと入るのだ。
 イリヤも先ほどから何度も今日の行程を聞かされていた。
 とにかく、ミルトの森周辺に巣くっている魔物を倒す。それが目的である。
 アレン率いる第四隊に同行する形になっている。
「あだぁ?」
 イリヤは抱っこ紐でマリアンヌを自身の身体にくくりつけた。
「聖女様。お嬢様も連れていかれるのですか?」
 アレンは驚いた様子で尋ねてきたが、むしろ彼の反応は正常だろう。
「はい。この子、人見知りが激しくて。おいていきますと、侯爵家のみなさまにご迷惑をおかけしますから」
「だぁだぁ」
 そうだそうだ、とマリアンヌが言っているようにも聞こえた。
「聖女様がそうおっしゃるのであれば……」
 アレンはイリヤと会話しながらも、その視線はちらちらとエーヴァルトを追っていた。その気持ちもわからなくはない。
「アレン様に、ご迷惑はおかけしませんから」
 めっそうもないとでも言うかのように、彼は首と手を同時に振った。
「こちらこそ、聖女様の足手まといにならぬよう、努めさせていただきます」
 ミルトの森はオロス侯爵の城館から馬車で一時間のところにある。それでもその間に村が一つあり、ミルトの森で魔物が大量発生し、森から出てきた場合、最初に標的となるのがその村なのだ。そしてすぐさま、アレンの元に助けてほしいと声が届く。
 移動時間も貴重な作戦会議の時間となった。
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