このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「魔物たちは私たちが惹きつけますので、聖女様にはまずは時空の歪みを確認していただきたいのです。あわよくば、瘴気を祓っていただきたく」
 アレンの言葉にイリヤも力強く頷いた。
「できるだけのことはやらせていただきます。ですが、私も不慣れである故、大目に見ていただけると」
 つまり、瘴気を祓えるかどうかはわかりませんと、遠回しに伝えているつもりだった。
「今日は、初日ですから」
「あだ、あだ」
 重苦しい雰囲気の中、マリアンヌの声だけは明るく響いていた。
 馬車が止まって外に出ると、すでに第四騎士隊のメンバーは揃っていた。アレンがイリヤを紹介する。
「聖女イリヤ様だ」
 たったそれだけのことであるのに、彼らの士気が高まったように見えた。
 これが聖女の影響力なのだ。聖女がそこにいる。その事実が、彼らの背を押す。
 せっかくエーヴァルトもこの場にいることもあって、彼から騎士たちへ激励の言葉をかけてもらった。しかし、イリヤが紹介されたときほど盛り上がりはしなかった。
「では、森の中に入ります。森の中は、どこから魔物が現れてもおかしくないような状況です」
 イリヤの前にはアレン率いる第四隊の騎士たち。そしてクライブが隣にいて、後ろにはエーヴァルトと彼の護衛の騎士たち。
 森へ入った途端、周囲の空気がピリリと張り詰めた。
「時空の歪みは、森に入り三十分ほど歩いた場所という報告だった」
 引き締めた表情のクライブは、眼鏡を押し上げるような仕草を見せたが、今日も眼鏡はかけていない。それはクセになっているのだろう。
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