このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 魔物だ。それも一匹ではなく、複数。そしてそれらは飢えている。
 魔物の好物は肉。家畜でも人間でも、とにかく肉を糧とする。
 瘴気によって、今、姿を見せたのかどうかもわからないが、これだけの魔物が人の集まる場所にいることを想像しただけで、背筋がぞっとした。
 となれば、とにかくそれを殲滅するのが最優先である。
 すっとクライブが剣を抜いた。
 イリヤも右足を下げてかまえる。
 魔物と対峙する。隙を見せれば、襲いかかってくるだろう。
 アレンが右手をあげて合図をすると、騎士たちが魔物に向かって走り出す。
 身の危険を感じた魔物たちも、こちらに向かって地面を蹴った。
「イリヤ」
 クライブがイリヤの前にかばうようにして立つ。
 魔法がぽんぽんと出るほど、イリヤは魔法の訓練を積んでいない。魔法を使いたいと思ってから、それなりに時間を要する。
 エーヴァルトと彼の護衛も、イリヤたちを守るように剣を向けている。
「ギャァアアアア」
 一匹が飛び出し、宙を飛んだ。そこに向かってアレンも剣を突き刺す。
「グルァアアアアア」
 剣先をうまくかわいた魔物は、アレンを標的にして襲いかかる。他の魔物も次々に、牙と鋭い爪を向けてきた。
「クライブはイリヤ殿を守れ。私は、マリアンヌを守る……」
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