このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 銀色の髪をバサッとなびかせ、魔物を切りつけたエーヴァルトであるが、そもそもイリヤはマリアンヌを抱っこしている。イリヤを守るもマリアンヌも守るも、この場合、同じ意味にはならないだろうか。
 なんて、考えながら、右手に魔力をためていく。
「クライブ様。どいてください」
 攻撃魔法なんて、使ったことがない。使う必要がなかった。
 クライブが身軽にすっと横にそれると、魔物がこちらに向かってくるところだった。端から見たら、クライブが逃げ出したようにも見えなくない。
 イリヤは両手を前に突き出す。
 それに合わせてマリアンヌがぶんぶんと両手を振り回す。
 ――ボンッ!
 イリヤの両手からは火の玉が連続してボンボンと飛び出していった。全部で五つ。
 それが魔物にあたると、一気に炎が魔物を包み込んだ。ジュッと焦げる匂いがたちこめる。残りの四つも魔物を追いかけ、グワッと火で覆う。
 その様子をぽかんと見つめる騎士たちであるが、それでも魔物は次々とこちらに襲いかかってくる。
「ぼやっとするんじゃねぇ!」
 昨日の紳士的な振る舞いからは想像できない。アレンの荒々しい声が響く。
「イリヤ」
 クライブがイリヤの肩を抱き寄せると、しゅっと背中を何かがかすった。
「グルルルルルぅ」
「あっ」
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