このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 魔物の爪がイリヤの背を引き裂こうとしたのだ。しかし、寸でのところでクライブが助けてくれたため、抱っこひもの背の部分が切られただけで済んだ。
「マリー!」
 勢いよくクライブに引き寄せられたため、マリアンヌはするっとイリヤの腕から抜け出て、まるでたかいたかいをされているかのように宙を飛ぶ。
「え~ば~」
「だから言っただろう? マリアンヌは私が守ると」
 エーヴァルトはマリアンヌに腕を伸ばして、彼女を抱きとめた。
「エーヴァルト様! マリーを……きゃっ」
 呑気に会話をしている場合ではない。魔物が肉を求めて襲いかかってきた。
「私を信用しろ。マリーだけは何があっても守る」
 その言葉を信じられるのが怖かった。エーヴァルトがそう言った以上、それは絶対に守られる。なによりも相手がエーヴァルトだからだ。
「イリヤ。ああ見えても陛下は強い。マリアンヌをお願いしよう」
 クライブと背中合わせになり、イリヤは次の魔法を放つために魔力をため始める。
 クライブは剣を振り、襲ってくる魔物を次々に斬っていく。ちらっとしか剣捌きをみていないが、イリヤから見てもそれが達者であるとわかった。
 頭もきれて、剣術もできて、顔がいいとは、ちょっと悔しい。
「もぅっ!!」
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