このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 その悔しさを火の魔法にのせてみた。バシュっと魔物にあたって、こんがりと毛と肉の焼けるにおいが漂う。
「あだ、あだ、あだだだだ」
 エーヴァルトに抱きかかえられながら、マリアンヌが手足をばたつかせる。彼女の周囲の魔物はふわふわと浮かび上がり、そのままドンと地面に叩き付けられた。
 忘れていたわけではないが、マリアンヌは聖女であり魔法が使える。そして、エーヴァルトを眠らせないほどの激しい夜があったとも聞いている。
「キャイン」
 地面に転がっている魔物を、エーヴァルトが剣で切り裂く。もちろん、片手でマリアンヌを抱きしめたまま。
「ギャウ」
 意外といいコンビなのかもしれない。
「あうあう~」
 エーヴァルトの腕の中で、マリアンヌは手を振って何かを命じているように見えた。
「イリヤ。大丈夫か?」
 魔物のどす黒い返り血が、クライブの頬を濡らしていた。
「あ、はい。魔法を放った直後は、ちょっと力が抜けた感じがしてしまって」
 だからぼうっとしてしまう。すぐに思考を取り戻すのだが、それでもほんの少し、心ここにあらずの時間が生まれる。
「なるほど。だが、オレが近くにいる」
「……はい」
 魔力が戻ってきたところで、もう一度かまえる。
 魔物の数は、だいぶ減っていた。
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