このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 アレン率いる第四騎士隊と、そしてなにげにエーヴァルトとマリアンヌコンビの活躍が大きい。
「あれで最後だ」
 クライブの言葉に頷き、イリヤはもう一度魔力を込める。だが今までの感覚と異なった。魔力が抜けていくような、そんな感覚。穴の空いた水桶に水をためていくような。
 魔力の限界が見えてきた。先ほどまでの火の魔法は放てない。
 となれば――
「クライブ様、剣をかかげてください」
 イリヤの言葉をすぐさま理解したクライブは、手にした剣先を天に向ける。
 イリヤはクライブに向かって魔法を放つ。正確には、彼の剣に向かって。
 その剣を手にしたクライブは、残りの魔物に向かって剣を振り回す。
 バシュっと、鈍い音が響き、毛が焼け肉の焦げるにおいがした。
「ギャアア!」
 先ほどから聞こえてくるのは、魔物の咆哮ばかり。最後の咆哮が響き、騎士たちは肩を大きく上下させて呼吸を整える。
「これで、終わりか?」
 額に汗を光らせるクライブが、イリヤの様子を気遣うようにして声をかけてきた。
「怪我はないか?」
「……はい。クライブ様に助けていただきましたから」
 イリヤは取り出した手巾でクライブの額の汗をぬぐい、魔物の返り血も拭き取った。
「それよりも、マリーは……」
 大きく周囲を見回した。マリアンヌはどこにいるのか。エーヴァルトはどこにいるのか。
< 198 / 216 >

この作品をシェア

pagetop